Plants Trees

*植物とのお付き合いの仕方*

あの日

 

**※***※…

師匠は志半ばで亡くなった。

飽き性なうえ無理な注文を要求する人で、かなり、それはもうとてもとても振り回されていたと思う。

一緒に山を登ったときには、次から次へと登山中に見かける花や葉の名前を答えてみろと言い、答えられないとなぜか不機嫌になるのだ。

またある時なんかは「柿を剥いたから食べろ」と差し出されたものを口に入れると、口いっぱいに渋味が広がった。慌てて吐き出し顔を歪めていると師匠はそれを見て腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。

それでも僕は植物も虫も鳥も人も愛する師匠のことが好きだった。

 

あるとき師匠の切り盛りする店に先代が口を出し始めた。

最初は本当にちょっとしたこと。それはだんだんと大きくなり派閥となって師匠に対する不満が僕の耳にも届いた。

もともとは先代が築き上げた店。

僕もいつしか巻き込まれ、師匠のやろうとすることに疑問を持ち始めた。

「こんなことしようと思うんだけどどうだ。一緒にやるぞ。」

「頼みたいことがあるんだけど、だめかな。」

いつの間にかそんな誘いの言葉にも耳は貸しても冷めた目をしていたと思う。

「それはやめましょう。先代の意に反しています。」

「僕はあまり乗り気ではありません。」

新しいことをするよりも先代の思いを大切にしなければ、という気持ちが僕の中で師匠に対する思いに迷いを生んだ。

師匠の気持ちなんてこれっぽっちも考えられていなかった。

 

そんなことが続いたある日、具合が悪いと言って師匠は店から出て行った。

それからしばらく戻らなかった。

外でも仕事の多い方だったので何か忙しくされているのだろうと、僕は僕で日常の仕事をただ淡々とこなしていた。

「ただいま!」

急に聞こえた聞きなれた声に驚いて振り返ると僕はさらに目を丸くした。

そこにはゲッソリと痩せた師匠が立っていたのだ。

「お前を見るとホッとするよ。帰ってきたんだなってさ。」

僕は涙が止まらなかった。

何があったかは大方予想がついてしまった。

師匠は黙って僕の肩を抱いてくれた。

 

それから数か月後、師匠は帰らぬ人となった。

僕は後悔している。

亡くなった後、いろんな人から「お前の話は聞いているよ。」と声をかけられた。

「可愛くて仕方がなかったんだな。」

そんなの僕は知らない。

そんな話は初めて聞いた。

なぜあの時、師匠の味方でいなかったのか。チャレンジしようとしていたことに水を差すようなことを言ったのか。

ごめんなさい。出来の悪い弟子でした。

もう二度とそんなことはないように。

僕は決断する。

誰の意見もおざなりにはしない。

出来る限りのことは協力をしようと。

新しく働き始めた職場は昨年三代目が就任した。

反発や陰口に僕は再びあのときを思い出す。

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